どうなる2024年のルール変更
現地2023年12月21日、MLBは2024シーズンに向けたルール変更を発表。ランナーがいるときのピッチ・クロックが20秒から18秒に短縮されるなど複数の変更点を発表しました。
ルール変更の規定
MLBと選手会双方がサインしている2022-26 CBA(労使協定)にはコミッショナーに45日前通告により新ルール導入の権限を与えています。これはフィールド上のルール変更に関する記述なのですが、2023年のビガー・ベースなどがこれに基づいて変更されたわけです。
競技委員会
2024年のルール変更は、6人のオーナー、4人の選手、1人の審判の計11名で構成される「競技委員会」で承認されたようです。オーナー側=MLB側ですから、過半数で決を採った場合、MLBが申請した案は承認されてしまいます。
MLB側は規定通りの手続きを踏んではおります。CBAの規定上、ルール変更を受け入れざるを得ないところもある選手会ですが、異を唱えました。
競技委員会の選手代表が反対
MLBがルール変更を発表したその直後、MLB選手会のトニー・クラーク事務局長が声明を発表。競技委員会の中に入っている選手たちは当日の変更案に反対票を投じたことを明らかにしました。
“This afternoon, Player Representatives voted against the 2024 rule changes proposed by the Commissioner’s Office,” the statement reads. “As they made clear in the Competition Committee, Players strongly feel that, following last season’s profound changes to the fundamental rules of the game, immediate additional changes are unnecessary and offer no meaningful benefits to fans, Players, or the competition on the field. This season should be used to gather additional data and fully examine the health, safety and injury impacts of reduced recovery time; that is where our focus will be.”
「今日の午後、(競技委員会に参加した)選手代表はコミッショナー事務局が提案した2024年のルール変更に反対票を投じました。競技委員会で明らかにされたように、選手たちは、昨シーズンのゲームの基本的なルールの大幅な変更に続き、早急な追加変更は不必要であり、ファン、選手、フィールドでの競技にとって意味のあるものではないと強く感じている次第です。今シーズンは追加データを収集し、リカバリータイムの短縮(全体的な時短策のこと)が健康、安全、怪我に与える影響を十分に検証するために使われるべきであり、私たちの焦点はそこにある」と。
ピッチ・クロックの導入だけでも相当な変更を余儀なくされた選手たちは、一旦は現状の時短で十分であり、選手の体調管理などの健康面、安全面に与える影響を考慮するために使われるべきだとの主張です。
では2024年のルール変更はどのようなものであったか、見てみましょう。
(1)ランナーズ・レーン
「ランナーズ・レーンは、ファウルラインと内野の芝生の間の土のエリアを含むように広げられる。ランナーズレーンを広げることで、妨害から守りつつ、打者はより直接一塁へ向かうことができる。 ファウルラインと内野の芝生の間の距離は、すべての野球場で18インチから24インチの間とされる。」
これはどこのことを言っているかというと、1塁側のファウルラインの内側のことです。打者の1Bへの走路を内側の土の部分もよしとする変更です。その芝生とファウルラインのダート部分はどこのスタジアムでもだいたい45.72cmから60.96cmの間で設定されているのでそれを利用すると。15cmの違いは結構大きいとは思うんですが。
ちなみにこれに関しては選手たちも長年、ホームプレートと1Bの間のレーンを広げるよう働きかけてきた事実はあるようです。ファウルゾーン側には3ftラインがありますが、内側の規定はありませんでした。3ftは91.44cmです。
ただ、内側を正式に認めてしまうと、捕手から1Bへの送球のラインに体を入れる打者走者もいて果たして本当に効果はあるのか?というのが筆者の疑問ですが、実際にプレーする選手からすれば柔軟性がある方が怪我の予防にもつながるという考えかもしれません。
(2)ペース・オブ・ゲーム
「MLBは、シーズンが進むにつれて、試合時間が長くなったことに対処するため、ペース・オブ・ゲーム(ゲームの時短化)のマイナー・チェンジを提案」しました。
これは現コミッショナー肝いりの策ですね。どうしても時短したいコミッショナー。想定には野球以外のNFLやNBAなどのライバル競技の時間の短さがある模様。一応、建前としては。
MLBのコメントとして「4月と9月では9イニングの平均試合時間が7分(投球数、休憩時間、得点数を考慮すると5分)増加した傾向への対処」ということです。
(a)投球間のタイミング
走者がいる場合の投球間隔を20秒から18秒に短縮。
MLBのコメントは「2023年、投手はランナーがいる場合、20秒のピッチ・クロック・タイマーが作動する中、平均7.3秒を残して投球動作を開始した」ということです。だったら、あと2秒削ろうよというコンサル的な発想からこう至ったようです。
また、「2023年では、ランナーを背負った状態での違反が最も少なかったという傾向があり。トリプルAのシーズン最終月に17秒のクロック・タイムを実施。その結果、走者がいる場合であっても、違反は増えなかった」というデータもあるようです。
投手はペナルティなしで2回までタイマーを止めることができる。
これは2023年のピッチ・クロック導入時のプレート外しと牽制の項目とほぼ同じかと。
https://www.mlb4journal.com/mlb-announced-2023-field-rule-change/
- ランナーがいる場合、ピッチャーがピックオフ(牽制)を試みるか、ラバー(ピッチャー・プレート)を踏み外すとタイマーはリセットされる。
- 投手は対戦する打者一人つき、2回の離脱が許される。離脱とは、牽制、あるいは牽制の偽投(MLBでは2塁への牽制でよくやります)、あるいはプレート外しのこと。
言ってみれば、牽制は2回まで。
- 走者が進塁した場合、この回数はリセットされる。(仮にバント失敗で走者が同じ塁に残った場合は、打者が変わるのでリセットされる認識です)
- 3回目のピックオフの試みが成功しなかった場合、ボークとして、走者は自動的に1つ進塁する。
(b) 打者のタイムアウト
「選手からのフィードバックに基づき、MLBは、打者がタイムアウトをコールした後、ホームプレートの審判が即座にピッチクロックをリセットすることを義務付けるという提案を撤回した」と。
(C)投手の交代
「イニングブレークの残り時間が2:00(2分)を切った時点で新しい投手がウォーニングコースに入った場合、クロックは2023年は2:15でセットされたが、2024年は2:00にセットされる。」
15秒短縮ですね。投手交代を含むイニングブレークは、2023年には平均2分35秒。なお、放送局は2分間のコマーシャル時間しか保証されていないようです。
(C)マウンド・ビジット
「マウンド・ビジットは1試合5回から4回に削減。ただし、8回終了時点で守備側のそれが0の場合、9回にも追加のマウンド・ビジットは与えられる。」
MLB側のコメントとして「マウンド・ビジットは、野球ファンが最も好まないイベントのひとつ。2023年の各クラブの1試合平均マウンドビジットはわずか2.3回であった。また、98%の試合で4回のマウンド・ビジットを超えなかった。 審判はまた、守備側の選手が実際にマウンドに集まることなく、マウンド・ビジットの合図を送ることを許可し、試合のペースをさらに向上させる。」としています。
(d) 回避 (マウンド周りをうろちょろ)
「FTC(フィールド・タイミング・コーディネーター)は、デッドボール(またはファウルボール)の後、投手がボールを持ち、プレー再開の準備が整った時点でタイマーを再スタートさせることが出来る。」
「これにより、ピッチャーがマウンドにいる必要はなくなり、ピッチャーがマウンドの端を歩いてタイマーの開始を遅らせることができなくなる。」とのことです。
一応、「プレー再開の準備が整った時点」ということですから、投手はアンパイアーからボールをもらって打者が打席に入ってからということですから、それほど違和感はないかもしれません。ただ、ランナーがいる場合は、少し間を取りたいケースがありますから、実際はそこをどこまで線引するのか、見てみたいところですね。
なお、マックス・シャーザーがマウンド周りを歩くのは三振を取った後です。
(e)ウォームアップを行う投手は少なくとも1人の打者と対戦
「イニングのウォーミングアップに送り出された投手は、最低1人の打者と対戦しなければならない(3バッター・ミニマムの要件に加えて)。」
MLBによると「今シーズン、イニング間にウォームアップした投手が投球前に交代したケースが24回あった。これにより、1回につき約3分のデッドタイムが発生した。2023年のワールドシリーズでは、このようなケースが2回あった。」
以上がルール変更です。
しかし、ピッチャーにはかなり負担となる変更だと思います。特にランナーを背負った際の2秒の短縮は大きいと思います。そもそもボールはツルツルだし、滑り止めも厳格に管理されるし、早く投げろと言われ、ピンチのときの集合も制限されるし、牽制で間を作る回数も限られています。散々な感じがします。
競技委員会に参加した選手が異を唱えた事に関し、MLBがどうリアクションするのかは注目です。ただ、MLB側は正当な手続きを経ているため、このまま実施ということになるのかと思われます。
お読みいただき、ありがとうございました。
コメント