村上のポスティング移籍のプロセス
現地2025年11月7日、NPBのヤクルト・スワローズは、3Bの村上宗隆選手をポスティング・システムを利用してメジャーリーグに移籍させる申請手続きを開始したと発表しました。
年内決着へ
村上選手の申請はかなり早い時期に行われました。ヤクルト側との事前交渉にぬかりのない、まさにロケット・スタートとなっております。
ポスティング・ウィンドウは現地2025年11月8日から現地2025年12月22日(日本時間23日)の45日間で、この期間に獲得に感心のある各クラブと契約交渉を行います。
一般的なNPB選手のMLB挑戦への契約プロセス
上述のようにすでに手続きは開始されていますが、一応、移籍への手続きを記載しておきます。
NPB選手のFA権の要件は2つ。
NPBの選手もMLBのサービスタイム(MLS)と同じように1シーズンを1年と換算する計算があります。NPBの場合は年間145日の一軍登録を1年とし、それに満たない一軍定着前のシーズンが複数あれば合算して累計でカウントされます。
そのNPB版のサービスタイムの計算で以下のシーズンを過ごした場合、フリーエージェント(FA)権利を有することとなります。
FA権は国内FA権と海外FA権の2つに分かれており、国内が8シーズン、海外が9シーズンとなります。流出を防ぐためにやはり海外の方が長めに設定されております。
- 国内FA権:8シーズン
- 海外FA権:9シーズン
9シーズン未満の選手の場合は?
では海外FA権のない9シーズン未満の選手はどうなるのか?というのがポスティングです。
フィルター1:ポスティング
海外FAの資格を得る前にMLBでのプレーを希望する選手は、「ポスティング・プロセス」という制度を利用しなければなりません。
日本の球団は11月1日から12月15日※の間に選手をポスティングすることができ、それが受領・承認されればMLBのクラブはその選手と交渉することが出来ます。その期間は45日間※のウィンドウ。
※2018年以降の規定。2017年までは12月5日までで30日でした。
選手との契約が決まったMLBのクラブは、日本の所属球団にリリース・フィーを支払うことになります
(リリース・フィー)
- $25M未満で合意した場合→20%
- $25,000,001〜$50Mで契約した場合
- 最初の$25Mに対して →20%
- 次の$25Mを超える額に対して→17.5%
- $50,000,001以上の契約
- 最初の$25Mに対して →20%
- 次の$25Mを超える額に対して→17.5%
- $50Mを超える部分に対して→15%
- 契約にSupplemental Fee(余剰の料金)がある場合、サイニング・ボーナス(契約金)あるいは、Vesting Option(〜を達成すれば$〜)がある場合はそれぞれ15%
- マイナー契約の場合は、契約金の25% + 40manロースターに登録された場合の追加料金が加算
フィルター2:ISBPの考慮
MLBが外国人選手と契約する場合はフリーエージェントか、もしくは日本人選手の場合はそれにプラスして上述のポスティングシステムを通じて契約しなければなりません。
ただし、NPB9年未満の選手でポスティングを利用してMLBに挑戦する場合は特例があり、以下の条件をクリアーしていなければ、ISBPを考慮する必要があります。
ちなみに、ISBPとは”International Signing Bonus Pool” (インターナショナル・サイニング・ボーナス・プール)のことで、大雑把に説明すると、海外選手と契約する場合の各クラブの契約金の総額のことです。かつて契約金を釣り上げることで根こそぎいい選手を持っていくケースがあったので、公平を期するように各クラブの契約金に上限がかけられいる・・・というイメージです。
そしてその条件が以下。これらを満たしていればISPBを考慮しなくて良いことになります。
- 年齢は25才以上
- 外国のリーグ(=NPB)で少なくとも6シーズン経過
年齢、シーズン数が満たない場合、ポスティング+インターナショナル・サイニング・ボーナス・プールの考慮が必要。
ISBPを考慮するかどうかは、クラブ側の食指にも影響。獲得したMLBクラブは契約、リリース・フィーに加え、アマチュアFAの新人獲得の枠を削られてしまうのです。
ISBPは主に中米からの若きタレント達とサインする際に使われる総額でその枠が削られるということは、チームの将来の編成にも影響。毎年、活きの良いドミニカ共和国やベネズエラ出身、プエルトリコその他の中米出身の選手がデビューしますが、彼らを最初に獲得する金額の枠がこのISBPなのです。
村上宗隆の場合
村上宗隆選手の場合は2025年オフに発表されたNPBのFA資格の選手のリストに名前がないように、海外FA権は有していなかったため、上述のようにポスティングとなったわけです。
ISBPの考慮なしでOK
- 25才以上か?⇛2000年2月2日(25才)= YES
- 外国のリーグ(NPB)で少なくとも6シーズン経過⇛(正確な計算はわかりませんが、)YES
さらに、村上選手の場合は、25歳ですからまず上記の1をクリアー。2に関してはヤクルトには2018年から2025年まで在籍し、この間のトータルは8年になりますが、1年目は6試合しか出場しておらず、本格稼働は2019年からになりますので、おそらくNPB版のサービスタイムは7年かと。ゆえに2の条件もクリアーしているので、獲得するクラブはISBPを削られることなく、契約+リリース・フィーのみで良い!ということになります。
条件としてはプロとみなされ、菊池雄星投手、筒香選手、鈴木誠也選手そして同じオリックス出身の吉田正尚選手、山本由伸投手らと同じということになります。
特殊だったのが佐々木朗希投手で、アマチュア扱いとなりました。佐々木投手はドジャース入団時は批判もあり、さらにシーズン開始後もネガティブな情報に溢れましたが、最後の最後にドジャースの救世主となりました。彼がいなければ連覇の道は閉ざされていたと見ていいでしょう。
NPBでの実績
25歳の村上選手は、ルーキーイヤーの2018年を除いて過去7シーズンにわたり、屈指の強打者として名を馳せてきたのはご承知の通りです。
とりわけ、2022年の56本塁打は、王さんが保持していたシーズン最多本塁打の日本選手による記録更新をしたのは有名。ちなみにこの年の打点は134。これもまたすごい数字です。NPBでの計8シーズンの通算成績は、246本塁打、843安打、647打点、.273/.394/.550、OPS .945。
市場の評価は?
気になる市場の評価ですが、村上選手はこのオフシーズンに入る前から噂にはなっており、現在、最も注目される野手の一人となっています。ESPNのFAランキング・トップ50では10位。

彼より上の野手は、1位のカイル・タッカー、3位のコディー・ベリンジャー、4位のアレックス・ブレグマン、7位のボー・ビシェット、8位のカイル・シュワーバー、9位のピート・アロンゾ。
村上選手の後にランクされているのは、12位のトレント・グリシャム、16位のグレイバー・トーレス、17位のジョシュ・ネイラー、18位のユーヘイニオ・スアレスら。
ちなみに日本人選手ですと、西武の今井投手が5位でトップ。カブスの今永昇太投手は20位、巨人の岡本和真選手は21位です。
守備は1Bか?
村上選手が守ってきたのは主に3B。ただ、MLBの3Bは前へのボテボテのゴロに対し、ベアハンドで対処する選手ばかり。作戦としてバントも多用されるようになってきたので、ベアハンドは必須と見ていいと思います。さらに天然芝への対応、強い打球への対処など・・・3Bは慣れるまで時間的に厳しいかもしれません。
スカウトは平均的な守備力を持つ選手と評価しており、1Bが最適という見方も。
内野を守ったことがあるという点でOFもその選択肢の1つになってきそうですが、堅実な守備で肩もまあまあであったレッドソックスの吉田選手のOFの守備は評価は高くありませんから、守備はかなりの水準が要求されますが、打撃に注力できるくらいに対処出来るかは今後の課題になりそうです。
メッツが熱心
噂として獲得に熱心に動いていると言われているのがメッツ。実際、1Bのピート・アロンゾがシーズン終了後にオプトアウトを宣言し、おそらくクラブ側は早々にオプトアウトで流出の可能性を見込んでいたのでしょう。
1Bと3Bが空いているという条件なら、マリナーズは可能性が高いかもしれません。3Bのユーヘイニオ・スアレス、1Bのジョシュ・ネイラーがFAですし、日本人選手を迎えた実績が多い点も良い条件かと。
ドジャースという声もありますが、フレディー・フリーマンとマックス・マンシーがコーナーにいるので、「ない」と見ていいでしょう。
また、レッドソックスの名前を挙げているメディアもありますが、これも「ない」でしょう。確かに1B、3Bと補強したいポジションではありますが、最優先は3Bのアレックス・ブレグマンとの再契約であり、1Bはトリストン・カサスが怪我から復帰します。
あとは3Bに苦心したヤンキースもどう動くかですね。
いずれにせよ、日本人をチームに入れたいクラブが多くなっているのはまぎれもない事実です。ドジャースにおける大谷選手や山本投手のチーム内での波及効果を見れば、入れたくなると思えるのも当然ですね。
お読みいただき、ありがとうございました。




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